信州木工会 木工アーカイブス | |
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'03信州木工会秋の研修旅行記 |
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あいにくの曇り空の9月20日、初めて国立東京近代美術館工芸館をたずねる。このような立派な場所での展覧会ということでいやがおうにも期待が昂まる。後で聞いた話だがこのような場所で現役の作家の展覧会を開くことは今までに無かったことらしい。約束の集合時間に少し早くついてしまったのでしばらく周辺を散策し、建物の写真などをとったりして時間を過ごす。しばらくして歩いていると本館のほうからこられた谷さんと合流する。もうすでに山本カズさんは入館されているということで谷さんと一緒に工芸館に向かう。工芸館の建物は古くは軍隊が使用していたものでレンガつくりの建物、保存管理がしっかりとなされている、雰囲気のある建物。 中へ入ると中央に階段があり二階が展示スペースになっている。大階段を上がり踊り場を折り返すと、そこには黄色いじゅうたんを敷き詰めたホールになっていて、各出品作家の椅子がひとつずつ展示されている。このコーナーの椅子は座ることを許されていて、見学者がお尻の感触を確かめるように座っている。まずは右へ向かい大きなガラス戸を開け入室するとそこはガラス張りの中に作品が展示されている部屋。谷さんの椅子、飾りだな、仏壇や、須田賢司さんの飾り棚や座卓など、徳永順男さんの迫力のあるベンチ、木塊によって宙に持ち上げられたキャビネットが展示されている。ガラス室の中へ入った作品は漆の透け具合が照明に照らされて、美しい素材の色合いを放っていた。第二室目は早川謙之輔さんのひのきの額、栗のチェスト、文机、文箱、テーブルセットなどが展示されている。文箱以外はガラスケースの外にあり至近距離で眺めることができた。チェストは栗のきらきらとした質感が素地の魅力を存分に発揮していた。たまたまそこにおられた、以前にこの研修旅行でもお世話になった桜井さん(桜井銘木店)がその栗のチェストの持ち主だということで、特別に蓋を開けて見せてくださる。ひのきのテーブルセットは面のとり方や表面の質感など、とても美しい立ち居姿をしていた。第三室目は村上富朗さんのウインザーチェアーとオリジナルデザインの椅子。ウインザーチェアーはとても部材が細いが全体でみるとそんな気にさせない安心感をもたらしていて、その中の一脚は谷さんがご自宅で永年使用されていてびくともしていないとのこと、アームの上の色がこすれてはげている。対するオリジナルチェアーのほうは現代的なデザインで、背の局面は体に良くなじみそう。座ってもよいコーナーに一脚展示してあり実際に座るととても気持ちが良かった。その奥へ行くと徳永順男さんのコーナーとなり、背のスピンドルを一本ずつ違う曲がりにしたクラシックな感じの椅子や大きな飾りだな、などが展示されている。そこから次の部屋へはガラス戸を開けて入るが、そこは展示室ではなくて途中の休憩室のような設えになっている。とは言ったものの置いてあるベンチは黒田辰秋、五、六脚並べてある椅子はジョージナカシマのコノイドチェアーがさりげなく置いてあり、ドシンと腰掛けてからやっと気がつく始末。存分に撫ぜてきた。壁には信州木工会提供の樹種サンプルチップがかけてあり見学者は興味を持って眺めていかれる。ガラス戸をとおり次の部屋へ入ると、小島伸吾さんの展示コーナー。樺をふんだんに使ったキャビネットつきのベンチや、照明、枝の形を模したテーブルなどが並べられている。造形に重きをおかれた造りで、生物的な印象を受けた。次の部屋へ行くと様子は変わり、高橋三太郎さんのかわいらしい雰囲気を持った椅子やベンチが展示されている。またその並びには中村好文さんの建築家らしいシャープな印象のものや、かわいらしい子供椅子などが置かれている。最後の部屋になり、また様子はうんと変わって、富田文隆さんの展示コーナー。流麗なデザインの椅子やキャビネット、柱時計などが展示されている。木目の現れ方を予測しながら削り込んでいくのだろうと推測される家具類は彫刻作品のような様子をしている。一通り見回ったあと中央ホールに戻り座ることを許されている椅子の座り心地を確かめる。 見学中参加者が徐々に合流しこのときには園田さん、蛭川さんも合流している。午後二時から本館講堂にて作家座談会が開催されるということで急いだ食事をとり、講堂に入る。階段状の椅子席の前にはステージがあり、工芸館主任研究官の諸山さんを司会に早川謙之輔さん小島伸吾さん高橋三太郎さん須田賢司さんが座っておられ、谷さんをはじめその他の出品者の方が最前列の椅子席に座っておられる。中村好文さんだけはこの日欠席されていた。年長の早川さんから仕事に取り組まれる姿勢、ご自身のテーマ感をお話になり、興味深く伺う。早川さんの「いる。」(必要)もの、児島さんの造形美、高橋さんのプロダクツ、須田さんの素材美というふうに同じ物づくりでもテーマの違いを興味深く感じた。 その後電車で移動し、ヨーガンレールというデザイナーの家具を見に行く。洋服のデザイナーがデザインした家具、ということ。南の島で作られているという家具は一木から削りだした造りのスツールや、銅の甕を脚にしたテーブルなどで南国の嗜好性の強い家具だった。 二日目はさいたま市大宮区の星河屋というビジネス旅館を訪ねる。どうしてそこへ行くのかもわからずについていくと建物はどこにでもあるような外観で、玄関も小ぢんまりとしている。靴を脱いで案内されるままに食堂入ると、そこにはたくさんの椅子がある。素朴な味わいのある椅子が大テーブルを囲み、また壁際にもたくさん並べて置いてある。話を聞くうちにわかった!池田三四郎さんの三四郎の椅子という本に紹介されていた鈴木三義さんだ、満面の笑顔で迎えてくださったこの方が。中学校の英語の先生をやりながら椅子を作っている、それがとてもよくできている、と紹介されていた。お話を聞くと道具が出てきて、手回し式のドリルと斧とヤスリ、これだけで作ったのだとか。なるほど素朴な道具と情熱とが作り上げた椅子なのだと感じた。今では体調があまりよろしくないということでアンチークの部品修理をやったりするくらいですよとのこと。製作のエピソードやたくさんの作品写真、池田さんとの書簡など興味深く拝見させていただく。 星河屋さんのある、さいたま新都心駅の周辺はいま開発の真っ最中で、数年後にくればまったく風景が変わってしまうような様子が感じられる。近くのギャラリーなどを案内してもらったあと鈴木さんと別れた。 |
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